アグネス・チャンのエッセイ
声だけの物語が、聞く力と想像力を育てる
子どもに鍛えてほしい大切な能力の一つは「聞く力」です。
日本語には「聞き上手」という言葉があります。人の話をよく聞く子は知識を得る機会が多いのです。聞き流さないように、聞いた話を自分の頭の中で理解して、疑問があったら質問ができる子どもに育てることが大事です。それによって子どもは学ぶ楽しさを覚え、好奇心を持ち、学習意欲を高められます。
私は息子たちが集中して話を聞く習慣を身につけられるように、毎晩、自作の物語を話していました。本も絵もなしで、声だけで物語を聞くのです。物語は「ペンギンの冒険」でした。
ママペンギンがはぐれた子どもペンギンを探すために、世界中を旅するのです。いろんな国でいろんな面白いことが起き、時には危険な目に遭ったりもするママペンギンの物語を、息子たちは毎晩楽しみにしてくれました。おとなしく静かに興味津々で耳だけを頼りに、笑ったり、驚いたり、集中してママの物語を聞いていました。耳から得た情報を脳に伝え、そこで自分だけの想像の世界を広げるのです。きっと長男と次男のペンギンの世界は違うし、次男と三男が脳で描く海も違うと思います。聞く耳だけではなく、想像力も鍛えられるのです。
食卓の会話で、人の話を聞き、自分の意見を持つ
もう一つ聞く力を育てるために私がしたことは、毎日の夕飯時に、息子たちを大人の話に巻き込むことでした。パパとママはいろんな話をするのですが、いきなり「君はどう思う?」と息子に聞くのです。これは2、3歳の時から始まりました。
最初子どもはびっくりして、何を答えればいいかわかりません。しかしそれを習慣にしていくと、子どもは自然に大人の話を聞くようになりました。そして「どう思う?」と聞かれると、答えられるようになったのです。それは「話を聞いていた」証拠です。
子どもが意見を出してくれたら、必ず真剣に付き合って、「なぜそう思うの?」「それは良い意見だね」と励ましてあげます。夕飯時の会話は、話を聞いてそれなりに理解し、そして意見を人に伝える訓練の場です。会話力は聞く力が基になりますから、それを毎日の食卓で楽しく練習できるのです。
「人を透明にしない」ことが思いやりにつながる
「聞く力」は、人に関心を持ってその話を聞き、その気持ちを受け止める力も育てます。「思いやり」の心ですね。私は子どもに、「人を透明にしない」「人に関心を持ちましょう」とよく話していました。優しさって、気づくことから始まるとしたら、人の話を聞こうとする心構えはとても大事ですし、それが「聞く力」も高めるのです。
子どもはもちろん、私たち大人にとっても、人生をより豊かに、和やかにするために、それはとても大切なことだと思います。
アグネス・チャン
香港生まれ。歌手・エッセイスト・教育学博士。94年よりECC 教育スーパーバイザー。香港バプテスト大学教授(客員)、ユニセフ・アジア親善大使。現在、歌手、タレント活動だけでなく、講演、エッセイ、文化活動など多方面で活躍中。