高校生が即興型英語ディベートで2日間の熱戦を展開
――その高速スピーキングにも注目
(第11回PDA高校生即興型英語ディベート全国大会)

神奈川県の聖光学院高等学校が二度目の優勝、2位は福井県立藤島高等学校

日本人の英語力については、「非英語圏125か国中96位、《話す・書く》のアウトプットはアジア平均を下回る(2025年PFエデュケーション発表)」などと、相変わらず極めて低い評価が続く。しかし「本当だろうか」と思わせるぐらいの会話力・コミュニケーション力を発揮する高校生たちもいる。昨年末の第11回PDA全国大会でそんな高校生たちの2日間にわたる熱戦を覗いてみた。

PDA、即興型英語ディベートって?

第11回PDA高校生即興型英語ディベート全国大会は、12月23、24日の2日間、東大駒場キャンパス内の生産技術研究所(コンベンションホール他)で、全国から過去最多となる100校、約300名の生徒が参加して開催された(リモート併用)。主催は一般社団法人パーラメンタリーディベート人財育成協会(PDA)、共催は東京大学生産技術研究所、大阪公立大学、後援は文部科学省他多数

即興型英語ディベート(パーラメンタリーディベート)とは、英国議会(Parliament)の形式に由来することから名付けられたもので、一つの論題に対して賛成・反対に分かれて論戦を展開する点は一般的に知られる教育ディべートと同じ。ただ、論題と立場が競技直前に決められるのと、一般的なディベートのように相手を言い負かすのではなく、自分の考えを見直し、よりよい判断を下せるための手段とすることを目的にする点、また議論の内容だけでなく伝達方法や議論方法などを含んで審査される点で異なる。

主催の一般社団法人パーラメンタリーディベート人財育成協会(PDA)は2014年に、一般社団法人日本英語交流連盟などの協力の下、読み書きそろばんと同じように、パーラメンタリーディベートが学習手法の一つとして受け入れられる社会になることを目指して設立された。英語での発信力、論理的思考力、幅広い知識、プレゼンテーション力、コミュニケーション力など複数のスキルを育み、グローバル社会で貢献できる人材の育成に寄与することが目的だ。代表の中川智ひろ 大阪公立大学准教授は、東大在学中にディベート部を設立し、自らも大学生英語ディベート世界大会ESLでそれまでの日本最高位となる準決勝に進出。その経験から、帰国子女などではない普通の日本人にとっても、即興型ディベートは英語力だけでなくコミュニケーション力、批判的思考力の育成などに活用できるのではないかと考えたという。

※そのほかの協力企業、団体は以下の通り:後援:朝日新聞社、朝日中高生新聞、全国高等学校長協会、一般社団法人 日本英語交流連盟、 一般社団法人 日本高校生パーラメンタリーディベート連盟  協賛:東京大学生産技術研究所次世代育成オフィス(ONG) 公益財団法人 Tazaki財団、一般社団法人 国際教育英語試験協会  助成:公益財団法人日本財団、公益財団法人 KDDI財団、 一般財団法人 三菱みらい育成財団

大会概要と結果

大会は、PDAが定めたルールやマニュアルに則って、1チーム3名からなる学校代表チーム(全国大会以外では1チーム4名編成の方法もある)がトーナメント方式で順位を競う。出場が認められるのは1校1チーム。また出場するメンバーは、英語を第1言語、第2言語とする国で2年以上滞在経験のある生徒(就学前は不問)、インターナショナルスクールまたはそれに相当する学校に2年以上通学経験のある生徒、および家庭または学校で常用的に英語を使っている生徒は1チーム1人以下に制限されている。1チームの3名は、以下の組み合わせ表に基づいて、1名が3つの役割から一つを受け持つ。

役割(スピーカー順) 肯定側 (Government) 否定側 (Opposition)
リーダー / 代表 Prime Minister (PM) Leader of the Opposition (LO)
チームメンバー Member of the Government (MG) Member of the Opposition (MO)
まとめ役 (Reply) Prime Minister Reply (PMR) Leader of the Opposition Reply (LOR)

2日間にわたる全国大会では、初日が予選で4回戦まで、2日目に準々決勝、準決勝、決勝が行われる。また今大会では、過去最多の参加校となったことを受け、予選9位から16位のチームによるランダムマッチも実施。勝利したチームや成績上位のチームは特別賞の対象となった。なお近年は、会場や出場校の都合から、オンラインを併用するハイブリッド形式で行われることが多いが、教育工学の最新手法を活かした主催者側の運営もあり、リモートでの参加もリアルと差がないように配慮されている。

大会結果(上位16位までの学校)は以下の通り

賞 / 順位 学校名 都道府県
優勝 聖光学院高等学校 神奈川県
準優勝 福井県立藤島高等学校 福井県
第3位 徳島県立城ノ内中等教育学校 徳島県
第4位 岡山県立岡山大安寺中等教育学校 岡山県
ベスト8 (準々決勝進出) 大成高等学校 愛知県
ベスト8 (準々決勝進出) 鹿児島県立甲南高等学校 鹿児島県
ベスト8 (準々決勝進出) 神奈川県立柏陽高等学校 神奈川県
ベスト8 (準々決勝進出) 神奈川県立横浜翠嵐高等学校 神奈川県
9位 東海高等学校 愛知県
10位 渋谷教育学園渋谷高等学校 東京都
11位 神奈川県立茅ケ崎北陵高等学校 神奈川県
12位 栄光学園高等学校 神奈川県
13位 栃木県立宇都宮東高等学校 栃木県
14位 鹿児島県立鶴丸高等学校 鹿児島県
15位 神戸大学附属中等教育学校 兵庫県
16位 東京都立日比谷高等学校 東京都

競技はどのように進められるのか?

1ラウンドは50分で完結する形式。最初に論題と肯定・否定の役割が示され、各チームは15分間で立論や対戦相手の質問も想定した議論の展開について作戦会議を行う。なお、立論の根拠となるポイントは2つと決められている。

作戦会議の様子

論題提示後、チームごとに15分間の作戦会議を行う。

対戦時間は20分。議場は以下のような配置となっており、各チームの3名は、順番に従って正面の演壇に移動し、一般聴衆に見立てたジャッジに向かってアピールする。

ディベート大会の議場

議場の配置

論戦は以下の流れで行われる。

順序 担当スピーカー 主な役割・展開
肯定側・首相(PM) 論題を定義し肯定ポイントを2つ挙げ、肯定ポイントの1を説明する。
否定側・代表(LO) 否定側の方針を確認し、肯定ポイント1への反論を展開。否定ポイントの1・2を確認した後、1について具体的に説明する。
肯定側・メンバー(MG) 否定ポイント1に反論し、肯定ポイント1の立て直しを図るとともに、肯定ポイント2について具体的に説明する。
否定側・メンバー(MO) 肯定ポイント1と肯定ポイント2への反論を展開。否定ポイント1を立て直し、否定ポイント2について説明する。
否定側・まとめ役(LOR) 否定側の方針を確認し、それまでのディベートを総括。否定側の意見が優れている理由を述べ結論を出す。
肯定側・まとめ役(PMR) 否定ポイント2に反論し全体をまとめる。自分たちの議論の優れている理由をアピールし結論を出す。

この間わずか20分。一人の持ち時間は約2から3分程度、しかもこの間に15秒以内だが、POI (Point of Information)と呼ばれる相手チームからの質問やコメントも予想されることから(拒否は可能)、持ち時間はさらに短くなる。事前に用意したメモに目を通すのも惜しまれる。

相手チームからの質疑応答

POI(Point of Information)、相手チームからは質問やコメントが飛び出す。

最後の15分は、ジャッジによる判定結果と講評に充てられる。判定は、「主張の理由」「具体例」「論題との関連性」「スピーカーの役割・戦略性」などの〈内容〉と、「態度・話す姿勢」「アイコンタクト・ジェスチャー」「明瞭性」「タイムマネジメント」といった〈表現〉の、二つの側面から各項目を点数化して行われる。

ジャッジによる判定

ラウンド終了後、ジャッジが判定と講評を行う。

対戦を終えた高校生たち

ジャッジの講評が終わり競技が終了すると、対戦チーム同士が笑顔で握手をかわす。これは「この競技のマナー。競技の目的は単に記憶や論理的思考といった知能を鍛えることだけではなく、共感や相手を尊敬するという姿勢を育むことでもあるからだ」と中川代表。

「ジャッジって」どんな人

ジャッジは《新聞を読むなどして得られる一般的な知識を持つ人》で、PDAが認定する「認定教育ジャッジ」の有資格者も多い。多くは各チームを引率、指導する教員や社会人などから選ばれる。大会2日目の最初には、「ジャッジブレーク」と呼ばれる参加生徒によるジャッジの評価も発表される。これは「ジャッジのコメントにはどの程度納得できたか」「それによって次への学習意欲がどの程度高まったか」という2つの観点から、生徒が内容、表現それぞれについてジャッジを5段階で評価するもので、平均点の高かった40名がこの日発表され、その中から上位に選ばれた者が、決勝トーナメントのジャッジを務める。

論題にはどんなテーマが?

論題は大会運営者側から提供されるが、今大会では、予選の4題に準々決勝(ランダムマッチ)、準決勝、決勝(3位決定戦)の3題を加えた全7題。決勝と3位決定戦では、先ごろマスコミで話題になった「日本は核兵器を持つべきである」が出題されるといったように、主に時事問題や今日的な社会課題、それに高校生の日常に身近なテーマが選ばれる。英語力だけでなく、日頃、社会や社会問題、身近な学校生活における問題に敏感で、その解決について考えていることも勝敗に影響を与える。

ラウンド 論題(英語) 論題(日本語)
予選1 Universities should prioritize regional diversity over academic performance in admissions. 大学は、入試において学力成績よりも地域的多様性を優先すべきである。
予選2 Japan should abolish the mandatory retirement age. 日本は、定年制を廃止すべきである。
予選3 Japan should abolish tax exemptions for foreign tourists to address overtourism. 日本は、オーバーツーリズム対策として、訪日外国人への免税を廃止すべきである。
予選4 AI decisions are better than politicians’ decisions. 人間の政治家による判断よりもAIによる判断の方が良い。
準々決勝 In group decision-making, one should follow the majority. 集団意思決定において、多数派に従うべきである。
準決勝 In foreign policy decision-making and execution, the judgment of diplomats should be prioritized over that of heads of government. 外交の政策決定・実施にあたり、首脳よりも外交官の判断を優先すべきである。
決勝
3位決定戦
Japan should possess nuclear weapons. 日本は核兵器を持つべきである。

PDAの即興型ディベートはなぜ50分なのか

即興型ディベートは、世界各地の教育現場で盛んに活用されており、その形態や運営組織は様々とされる。国内でも高校生を対象にしたものにはPDA主催のもの以外に、一般社団法人 日本高校生パーラメンタリーディベート連盟が主催するものがある他、組織的に行われていないものも含めれば数々の実践が行われているようだ。

こうした中、PDAの一つの大きな特徴は公教育での活用を当初から念頭に置いて制度設計されている点だ。50分で完結すれば英語の授業やそれ以外の授業にも取り入れやすい。さらに2022年度からは、高等学校の英語科新科目「論理・表現Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ」におけるディベート活動でも実施できる形態に合わせてある。この展開が功を奏し、PDAの即興型ディベートはわずか10年で、中学校も含めて国内1000校以上で実践事例を積み上げてきた。

ここであらためて、PDAによる即興型ディベートによって身につく力を以下に紹介する。

身につく力 その理由・背景
英語(での発信)力 全員が話さざるをえない状況を作ることによって使える英語力が身につく
論理的思考力 相手を説得しようとすると同時に、フィードバックも受けられるため
幅広い知識・考え方 様々な論題を通して社会課題や多様な視点に触れるため
プレゼン力 声のトーン、身振り、手振り、姿勢などを意識して伝えるため
コミュニケーション力 チームで協力し、作戦会議や議論を行うことにより得られる

多様な評価基準で様々な賞や表彰も用意

競技結果以外にも、この大会では多様な評価軸に従って各種、様々な賞が設けられている。

賞の種類 対象 選考基準・概要
ベストディベーター賞 個人 各試合でディベートに最も貢献した個人が選出され、4試合を通して選ばれた回数が最も多い個人に与えられる。
POI賞 個人 優れたPOI(Point of Information:質疑応答)を行った個人に与えられる。
ベストジャッジ賞 ジャッジ 参加生徒からの評価(納得度・学習意欲の向上など)が最も高かったジャッジに与えられる。
授業導入賞 学校 一般生徒向けに、学校全体で即興型英語ディベートを授業に導入し、提出された書類やカリキュラムが優れていると認められた学校に与えられる。

今大会では以下の学校が「授業導入優秀賞」に選ばれた。

徳島県立城ノ内中等教育学校 / 山形県立東桜学館高等学校 / 千葉県立船橋高等学校

今大会の結果を受け、第11回PDA高校生パーラメンタリーディベート世界交流大会(2026年1月22木・23日金、海外から12カ国が参加してオンライン開催による)には、以下の5校が出場権を得た。

選出枠 出場権獲得校
大会成績上位(1位~3位) 聖光学院高等学校、福井県立藤島高等学校、徳島県立城ノ内中等教育学校
授業導入優秀賞枠 徳島県立城ノ内中等教育学校、山形県立東桜学館高等学校、千葉県立船橋高等学校

社会のグローバル化、異文化理解や異なる価値観を持つ国々、人々との交流が加速する中、語学力を前提としたコミュニケーション力はこれまで以上に問われる。また学校現場で探究学習などが重視されるように、これからの予測不能な社会を生きるであろう子どもたちの教育には課題解決型の学びの重要性はますます高まる。こうした観点から、即興型英語ディベートで得られる力はますます重要になってくると考えられる。もちろん昨今指摘される日本の若者の内向き志向の打破にも有効だろう。一方で、外国語教育においてはAIを使ったさまざまな教育実践が進むことを受け、協会もAIディベートシステムの可能性を探るなど、その進化を意識した取り組みも始めているという。ただ、即興型英語ディベートの主体はあくまで人間であることに変わりはなく、今後もAIによっても代替できない教育手法の一つとしてますます期待が膨らんでいくに違いない。

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