疲労回復のための特効薬
「活動、疲労、休養、活力」の四角形を回せ

休養学の提唱者 片野 秀樹さんに聞く

はじめに

私が代表理事を務める一般社団法人日本リカバリー協会では、毎年、成人男女10万人を対象に疲労に関する調査を行っていますが、昨今は約8割以上の方が疲れていると回答されています。1999年の厚生省(当時)のデータでは6割でしたから、この27年間で如実に増加したことがわかります。疲れた日本人が増えているのです。

大きな原因として考えられるのが生活の変化です。この27年間はスマートフォンやパソコンといったデジタルデバイスが身近になった時期でもありました。この変化で、私たちは以前とは違った種類のストレスにさらされるようになりました。もちろん私たちは、機械を使いこなして生活を楽にしよう、効率化しようと進んできたわけです。しかしそれがいつの間にか、24時間マルチタスクで働く機械のペースについて行かなければと、自分の方を追い込んでしまった。自分自身の、ひいては社会全体の破綻につながるこの状況を何とか食い止めなければいけません。

疲労感を持ち越すことなく、自分自身のパフォーマンスをしっかり発揮して生きるためにはどうしたらいいのか。先ほどの調査は成人が対象でしたが、疲労感があるお子さんも少なくないはずです。子どもから大人まで、個々人が、休養についての認識をアップデートしていくことは急務です。そこで休養のとらえ方の問題点について考え、行動変容を促す2つの考え方をご提案したいと考えました。

疲労感とは「痛み」「発熱」と並ぶ三大アラーム

最初に疲労感とは何なのか、明確にしてみましょう。疲労感は、肉体的もしくは精神的に活動能力が下がっている時に出る不快感で、休みたいという願望に結びついています。これは身体から発せられる三大アラームの一つで、「活動能力が低下しているから、高まるまで待て」という信号なのです。そもそも疲労がたまるという表現も勘違いを起こさせますね。疲労はたまるものではなくて、状態なのです。

このアラームをそのままにしておくと、どうなるのか。ホメオスタシスという体の中のバランスを保つ働きが崩れ、病気になるなどのリスクにつながります。私は小型犬を飼っていますが、犬は不快感、疲労感を覚えると動かなくなります。活動能力が低下している間は、安全な場所に留まるという理に適った選択をしているわけですね。

一方人間は、他の2つのアラーム、「痛み」と「発熱」には比較的きちんと対処するものの、疲労感については我慢してしまいます。幸か不幸か、脳が発達したため、使命感や責任感、あるいは報酬の喜びで、疲労感をマスキングしてしまうのです。このことがパフォーマンスを下げたり発病のリスクを高めたりするのです。加えて日本には、働くことが美徳とされる伝統があり、休むことに罪悪感を抱きやすいという背景もあります。

育たなかった《休養のリテラシー》

疲労感という信号が本来の機能を果たせないこのような状況を突き詰めていくと、社会の理解が不十分で、個々人に休養のリテラシーが育っていないという問題に行き当たります。厚生省が「国民健康づくり対策」として、「運動と栄養と休養」という3つの大切な要素を挙げたのは1978年。以後、運動と栄養については学校でも保健体育や家庭科などで学ばれ、研究も発展してきました。またそれに伴い、社会全体の意識も高まってきました。しかし、残念ながら休養についてはあまり注目されてきませんでした。私は今こそ、長年留め置かれた休養に関する国民の意識を高め、そのリテラシーを高めることは待ったなしだと思っています。

ちなみに休養に関するリテラシーが育たないまま、多くの人が疲労の蓄積を感じた時に目安にされるのが、「よく寝て疲れが取れた」という子どもの頃からの経験です。休むこと=寝る、そう捉えて、疲れを取ろうとしてきたのです。

もちろん睡眠は休養の要です。しかしそれだけでは、加齢や社会の変化に伴う疲労はカバーしきれません。リテラシーを高め、そこから一歩踏み込んだ対策が必要なのです。

7つの休養のススメ

そのために私は、以下のようなさまざまなタイプの休養を組み合わせることを提案しています。

生理的休養
1. 休息タイプ(睡眠をとる、ソファでゴロゴロするなど)
2. 運動タイプ(ウォーキングする、ヨガをするなど)
3. 栄養タイプ(胃腸にやさしい食事を摂る、白湯で体を温めるなど)

心理的休養
4. 親交タイプ(ペットと触れ合う、雑談をするなど)
5. 娯楽タイプ(音楽鑑賞・映画鑑賞、推し活など)
6. 造形・想像タイプ(絵を描く、DIYをするなど)

社会的休養
7. 転換タイプ(洋服を着替える、旅行に行くなど)

これらをご自身で組み合わせながら、主体的に、いわば「攻めの休養」をとり、それを行動変容につなげていただきたいというのが私からの提案です。

キーワードは「活力」

休養に関するリテラシーを高めておかないと、疲労からの回復は、「活動、疲労、休養」という三角形を回すことでしかイメージできません。

しかしこれでは、活動に戻った時に疲れを残してしまうこともあります。「朝起きた状態ですでに疲れている」という状態がそれです。これでは携帯電話を十分に充電せずに使うようなもの。

そこで、これを四角形に変えてイメージしてみませんか、というのが私からの第一の提案です。これまでの三角形に、疲労の対義語である「活力」を加えて、「活動、疲労、休養、活力」という四角形で考えるのです。この休養から活力に向かうプロセスを加えることが、先ほどお話しした「攻めの休養」です。休養だけでは充電が不十分であっても、活力を加えてフル充電に近いところまで持っていけば、サステナブルな循環が可能になります。

活動・疲労・休養を三角形で示した図

従来の三角形モデル(活動・疲労・休養)

活動・疲労・休養・活力を四角形で示した図

活力を加えた四角形モデル(活動・疲労・休養・活力)

スポーツの世界で、「超回復理論」という考え方があります。日頃から大きな負荷をかけるとその直後は疲れて体力が落ちるけれど、そのあと十分な休養をとることで、トレーニング前より体力がつく、という現象を説明したものです。もちろんこの場合も、休養が不十分だと、かえって以前より体力は落ち、「オーバートレーニング症候群」に陥ります。《三角形で回している》限り、同様のスパイラルに陥る危険性はいくらでもがあります。ぜひ「活力」を足した四角形をイメージして、疲労回復をはかってください。

スタートラインが朝、では遅い!?

もう一つの提案は、オフの時間をマネジメントするということです。私は「オフファースト」と呼んでいて、一日のスタートラインを学校や仕事が終わった時点に置き換えるのです。

私たちは一日のスタートラインを朝起きた時だと考えがちです。しかしよく考えると、大切なのはいかに翌朝までに活力を補い、しっかりと活動できる状態にしておくかということですよね。それにはスタートラインが朝では遅いのではないか。一日の起点をずらし、オフの時間をマネジメントしやすいようにすることが大切だと私は考えています。

オフの時間をマネジメントする、この発想は1993年にEUで、「業務間インターバルを連続11時間取らなければならない」と法律に定められたことで広まりました。仮に夜12時まで残業したら、翌朝は11時以降でないと出社できないというルールです。11時間という決まりができたことによって、オフの時間が可視化され、それをマネジメントするという発想が生まれてきたのです。

私はよく「オン至上主義」と呼んでいますが、これまでのオンの時間を優先した行動様式の中では、残り時間をオフの時間として捉えて、睡眠時間を圧縮してしまうことがよくありました。これでは活動能力は低下し、負のスパイラルに陥るのはあきらか。やはり「オフファースト」で、オフの時間から先にマネジメントしていただきたいと思います。

この考え方をスケジュール管理に活かし、月曜からではなく「土曜から始まるカレンダー」や、「曜日が空白のカレンダー」を作って、1週間を思い描くのも良いと思います。お子さんと一緒にやってみるのも良いでしょう。

休養学の提唱者 片野秀樹さん

一流のスポーツアスリートに学ぶ休養

休むことを、怠けること・サボることだと考えて罪悪感を抱いてしまう日本人はまだまだ多いと思います。しかし意外かも知れませんが、厳しいスポーツアスリートの世界では、「休養をマネジメントする」ことが大事という考え方が根付き始めています。というのも、一流のアスリートともなると、これ以上トレーニングしてもパフォーマンスは伸びないというレベルまで体を鍛えています。だからトレーニングだけでは差がつかない。そこで疲労を少なくするコンディショニングを取り入れたトレーニングが始まっています。基になっているのが「フィットネス疲労理論」。「自分自身の体力-疲労=パフォーマンス」という考え方です。世界的には、2006年にこれを取り入れたオーストラリアの選手たちが、以後オリンピックなどで躍進したことで知られています。

また、大谷翔平選手が睡眠時間を聞かれた際に即答していたのは、記憶に新しいですね。これも日頃からオフの時間を意識してマネジメントしていることの表れではないでしょうか。

どういうオフを取ったら良いパフォーマンスを発揮できるのか、このような発想を繰り返して、自分自身を見つめていくと、自分に合ったパターンも見つかるはず。ぜひ、攻めの休養、オフファーストを意識して、疲労を残さない毎日をお過ごしください。

休養学の提唱者 片野秀樹さん

片野 秀樹(かたの・ひでき)
博士(医学)、一般社団法人日本リカバリー協会代表理事。株式会社ベネクス執行役員。東海大学健康科学部研究員、東海大学医学部研究員、日本体育大学体育学部研究員、特定国立研究開発法人理化学研究所客員研究員を経て、現在は一般財団法人博慈会老人病研究所客員研究員、一般社団法人日本未病総合研究所公認講師(休養学)、一般社団法人日本疲労学会評議員も務める。日本リカバリー協会では、休養に関する社会の不理解解消やリテラシー向上を目指した啓発活動や、休養士の育成活動に取り組んでいる。編著書に『休養学基礎:疲労を防ぐ!健康指導に活かす』(共編著、メディカ出版)、著書に『休養学:あなたを疲れから救う』(東洋経済新報社)、『寝てもとれない疲れが消える マンガでわかる休養学 最高のパフォーマンスを生む休み方』(KADOKAWA)、近著は『休養マネジメント:「自分だけの休み方」が見つかる忙しい人のためのリカバリー戦術』(かんき出版)。

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