幼児教育指導者の先生に聞く
小学校受験の前に知っておきたいこと2026年は教育の常識の分岐点?

―「正解のない未来」を生きるわが子のために、今、どんな教育が必要か。
親としての立ち位置・姿勢についても考えたい
石川教育研究所「イエリ」 所長 石川幸夫さん

ふとニュースを見ると、AIの進化や大学入試改革の話が飛び交い、「これからの時代、どうやって子どもを育てていけばいいの?」と、少し不安になることはありませんか?
実は、2026年は教育において大きな「時代の分岐点」になると考えられます。これまでの「当たり前」が通用しなくなるかわりに、子どもたちがもっと自分らしく、自由に羽ばたけるようになる始まりの時であるかもしれません。2026年以降の教育の変化と、私たちが家庭や教室で大切にしていきたいことについて考えてみました。

2026年度小学校入試の「新しい風」

首都圏の2026年度小学校入試は、コロナ禍以降、安全・安心な教育環境を求め増加し続けてきた受験者数は高止まり、ないしは微増という結果に終わり、表面的には変化の少ない年に見えます。しかし、新しい時代の価値観を反映した動きが現れたことも見逃せません。

その一つが、難関と呼ばれる学校を中心に、単純に知識を問う問題から、思考力・判断力・表現力を問う問題へと出題傾向が変化したことです。

背景には大学入試の新しい動きがあります。高校で新課程を学んだ生徒が受験する2025年度入試からは、『情報』という科目が加わっただけでなく、「探究学習」などの成果を評価する入試が増えてきています。「正解を覚えること」から、「自分で考え、判断し、表現すること」へと、評価の基準が大きく変わってきているのです。そしてこの流れは、2年目となる昨秋からの2026年度入試では加速していて、それが小学校入試にも反映し始めたと私は見ています。

学校選びにも新しいトレンドが

第2の特徴は、こうした変化を肌で感じられているのか、偏差値という他人の物差しを一旦横に置き、わが子の個性や、これからのAI時代・グローバル社会を見据えて学校を選ばれるご家庭が増え始めていることです。これまでのように、単に「大学付属だから」というより、ユニークな教育カリキュラムを用意していたり、共働きのご家庭を支える充実したアフタースクール機能があったり、「探究学習」を前面に打ち出した学校に人気が集まりました。これは、「将来に対して多様な選択肢のある(と信じられてきた)普通の進学校」から、「独自のスキルが体験を通して得られる学校(高等学校に当てはめると高専や実業系、独自の教育方針の私学)」や、「偏差値という数字では測れないけれど、尖った教育をしてくれる学校」へと、保護者の皆様の関心がシフトしている表れと見ることができます。

学校に求めるものが知識の詰め込みから、機械に置き換えられない人間にしかできない能力を高めてくれることへと変わりつつあります。計算や暗記はAIにお任せできる時代だからこそ、AIを使いこなす一方、AIにはできない次のような力や能力を学校に求め始めてきたのではないでしょうか。

「0から1を生み出す力」や「問いを立てる力」、また「生きている世界の手触り」を五感で感じ取る力、人の痛みをわかり、他者の感情を理解して共感する「情緒的な能力」、正解のない問題に対して自分で問いを立て考えを深める「批判的思考力」、さらには「お友達と協力するコミュニケーション能力」などです。

受験勉強を、単に合格のための訓練としてではなく、AIと共生する未来を見据え、このように基礎を育む機会として捉えようというご家庭が増えることは、長年幼児教育に携わってきた者からするととてもうれしいことです。

探究学習のイメージ

正解のない問いに挑む「探究学習」への関心が高まっている

《ブルーカラービリオネア》と、ホワイトカラーの戸惑い

今、教育に関心の高い方々の間で「ブルーカラービリオネア」という言葉が注目されているのをご存知ですか? 少し聞き慣れない言葉かもしれませんが、これは「高度な専門技術を持ち、現場で即断即決できる人たちがこれからのAI時代に最も高い社会的地位や収入を得るようになる」という予測から生まれた言葉です。

これまで、オフィスで働く「ホワイトカラー」は、頭脳労働者とされエリートの代名詞でした。けれど今、事務や分析、プログラミング、さらには法務や医療診断といった定型的な知的作業は、驚くべきスピードでAIが代わりを務め始めています。その一方で、建築や高度な設備のメンテナンス、職人さんのような繊細な手仕事、あるいは現場での複雑な対人交渉といった仕事は、身体感覚やその場の判断が必要なためロボットにはまだまだ真似できません。

「一生懸命勉強して高学歴を獲得して、大企業のオフィスでパソコンに向かう」というこれまでの黄金ルート、勝ち組と言われた職業ほど、AIによってとって代わられやすい、リスクの高い職業に変わりつつある……。この逆転現象が、今、多くのご家庭が抱えている漠然とした不安の正体なのかもしれません。

本当のゴールは、一生ものの「学び続ける力」を育むこと

今私たちは、子どもたちに「将来どんな職業に就けばいいか」を教えるのがとても難しい時代にいます。しかし教育が果たすべき最も大切な役割は、自ら《学び続ける力》を育むことに変わりはないと思います。

確かにこれまで、教育に対しては学校を卒業したら《学びは終わり》で、あとはその知識を使って働けばいいというような考え方もありました。でも、技術が進化するスピードが人の一生よりも速くなり、一度身につけたスキルも数年で古くなってしまうような時代には、《学び続ける力》が最強の武器になります。

「面白そう!」という好奇心から、そのために必要な情報を収集し、新しい世界に勇気をもって飛び込んでみる。この繰り返しが、自分自身を常にアップデート(再定義)していくためには欠かせません。

このように考えると、受験勉強もまた、学び続けるための基本を学ぶための大切な手段と捉えることができます。目標に向かって計画を立て、壁にぶつかり、悩み、試行錯誤する――このプロセスを経験することが、やり抜く力や自分のことを知る力を育み、また未知の世界へ一歩踏み出すための知的な勇気を育てる土台を作ってくれるからです。

保護者や教育に携わる者は、先導するのではなく共走することを心がけよう

これから小学校受験、あるいは中学校受験を考えている保護者の皆様にもう一つお伝えしたいことがあります。それは、保護者世代の過去の成功体験を、一度リセットしてみませんかということです。一流の肩書きがあれば一生安泰、という時代は幕を閉じようとしています。これからは、偏差値が高いからではなく、「この学校の教育方針は、うちの子の個性に合っているか?」という視点からの学校選びが、これまで以上に大切です。

またストレスの多い今の時代には、数値化できる能力(認知能力)以上に、心の強さやしなやかさが必要です。保護者や教育に携わる者は、正解主義で子どもを引っ張る先導者ではなく、未知の航海を、子どもと一緒に楽しむような共走者(パートナー)の姿勢が求められます。子どもの「なんで?」という好奇心に寄り添い、失敗をダメなことではなく《成長を促すための貴重なデータ》として前向きにとらえる。自分たち自身が、「学ぶことって楽しい!」と《学び続ける》ことの重要性を背中で示す。これこそが、AI時代における最強の家庭教育、幼児教育になると思います。

結びに:未来を創る子どもたちへ

教育の目的は、完成された人間を作ることではなく、変化し続ける人間を支えることにあります。未来は、予測して恐れるものではなく、自ら学び、自ら創り出していくもの。子どもたちには、学びという終わりのない旅を、喜々として続ける人になってほしい。その第一歩を、2026年度から共に踏み出していきたいものです。

石川幸夫(いしかわ・ゆきお)
石川教育研究所「イエリ」所長。教材開発、塾・学校・幼保・幼児教室の先生方などの職員研修を積極的に行う。指導した団体数は400以上、講師などの数は6万名を超える。TV出演、講演会多数。

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