追手門学院中学校の取り組みにみる
自立した学習者としてのマインドを育てる
英語プロジェクト学習

追手門学院中学校 英語PBL

中学校で学習指導要領が改訂されて5年が経過した。「思考力・判断力」や「主体的に学ぶ姿勢」など、重視するべき観点が提示されたものの、実際の授業への反映はなかなか難しい。今回は、プロジェクト型学習を取り入れることで、学習者の自ら考える力や自立的に学ぶ力を伸ばしている追手門学院中学校(大阪府 私立)の英語の授業を紹介する。英語科教諭の濱﨑理佐先生にお話をうかがった。

教科書通りには進まない授業

追手門学院中学校の英語プロジェクト学習は2025年4月にスタートした。同校は、以前にも「英語×国語×探究」といった独自のプロジェクト学習に挑戦してきた。学校全体としてもプロジェクト型の学習(以下、PBL)を学びの軸にしている。

「学年としても、英語科としてもプロジェクトがメインにあって授業を展開しています。成果物を作ること、自由進度で進めることが基本で、教科書を使うのはプロジェクトの中の一つミッションと位置付けています。教科書通りには進まない授業です。」

これは英語科でのPBLを実践する濱﨑先生の説明だ。「教科書通りには進まない授業」と先生はさらりと話すが、中学生は戸惑いを感じないのだろうか。特に担当する1年生は小学校を卒業したばかり。ただ単に「自由に進めていいよ」と言われても、何をしたらいいのか見当もつかない生徒が多いのではないだろうか。

「最初の授業で、その学期で取り組む授業のスケジュール、提出すべき成果物、どんなところを評価するのか明示したルーブリック※1などを全て生徒に提示します。生徒たちは成果物を作ることを『面白そう、楽しそう』とまず意欲を持ち、そこから逆算して必要な知識や作業を各自が考えて作業に取り組みます。」

追手門学院中学校の授業風景

英語プロジェクト学習の授業風景

※1 ルーブリック:学習目標の達成度を評価するための評価基準表。「評価する観点」ごとに「評価の尺度(レベル)」を具体的な内容で書き記し、表の形式にまとめたもの。

「面白そう」と感じれば、生徒は自ら基礎知識も求めに行くようになる。近年の学習科学は「学習者は自ら学ぶ力がある」という前提に立つ。これは、旧来の教育観「生徒は何も知らないので基礎から教える必要がある」と真っ向から対立するものだ。国としては2020年(中学校は2021年)の学習指導要領改訂で、この前者の知見に基づくものへと舵を切った……はずなのだが、なかなか実践への道は険しい。同校は、その困難な実践に挑戦している。

相手へのリスペクトを表現するプロジェクト

具体的なプロジェクトの内容を濱﨑先生に教えてもらった。2025年の中学1年生の英語科では、1学期に「リスペクトプロジェクト」、2学期に「ディファレンスプロジェクト」に取り組んだと言う。

1学期はまず自己紹介から始まる。各自の紹介が終わったら、次は、歴史上の偉人や架空のキャラクターになり切って、その人物やキャラクターの“自己紹介”をするといったようにプロジェクトは進む。

「生徒がリスペクトする人物やキャラクターについて、“自己紹介”します。指定した項目——たとえば好きな食べ物など——は必ず含めないといけませんが、調べても見つからないものもあります。資料のない部分に関しては、各自が『この人ならこうだろうな』と考えて補います。正解が分からない問いに対して、自分で考えることができる、与えられたものだけで満足しない、そういう生徒を育てたいのです。」

中学1年生ということで、選ぶ人物やキャラクターは、マンガのキャラクターやプロスポーツ選手などが多いとのこと。中にはハローキティやクラスメイト、消しゴムの《自己紹介》に挑戦した生徒もいた。

「“消しゴムの自己紹介”は、かえって難しいようにも思いましたが、生徒がやりたいと言ったことには基本的に『いいよ』と答えるようにしています。ただ、どんな対象であっても“リスペクトを持って取り組む”ことから外れないようには気をつけて見ています。」

グループで学ぶ授業風景

生徒が協働して学ぶ時間

異文化理解と関連させたプロジェクト

2学期の「ディファレンスプロジェクト」は他者との違いがキーワードとなる。学年全体のプロジェクトのテーマである「異文化理解」と関連させる。

「大学への留学生と一緒に茨木市を巡ります。するとたとえば、私たち日本人にとって街中に神社があるのは当たり前の景色ですが、留学生にとってはそうではないことに気づきますね。そこから留学生にそれぞれの国の文化を聞き、それを知ることで、異文化の視点から見たからこそ分かる違いに気がつきます。」

この取り組みと関連させながら「ディファレンスプロジェクト」では、異文化との衝突とその解決を考える。まず、AIを使って異文化衝突の事例を挙げて、それをランダムに生徒4人〜5人のグループに渡す。どうすればその衝突を防いだり、和らげたりできるのかを各班で話し合い、その事例の説明と解決のためのアイデアを英語スキット(小劇)にして演じる。

「たとえば、日本人Aさんとブラジル人Bさんが一緒にいる時、お互いの文化的なパーソナルスペース※2の違いから、Bさんの近づき方がAさんにとって不快に感じるとします。そこでまずは、どのような文化的な背景の違いがあるのかを調べて、異なる文化を持つ2人が衝突しないようにするには、どんな改善策があるのかを考えます。そして調べた文化の違い、考えた改善策を盛り込んでスキットの台本を作り、パフォーマンスします。」

グループ活動では、リーダー役などの役割分担は決めずに、グループの全員が同じように活動に参加する。台本の作成では、全員がそれぞれ書いてから、グループ内で話し合いながら完成させていく。あえて役割を固定しないことで、単なる分業ではなく、協調してプロジェクトを作り上げる学びになるようにしている。

※2 パーソナルスペース:それ以上近づかれると不快に感じる、目に見えない心理的な領域のこと。相手との関係性、性別、年齢、文化などによって広さが変化する。

教師として築いてきたレールを壊す挑戦

同校でも以前は教科書通りに進める旧来型の授業が主流だった。しかし、校舎移転を機に行った大胆な学校改革で、学びのあり方を根底から見直した。現在の校舎の構造自体が、オープンで協働的に学ぶことを前提としたデザインになっている。

「本校の方針として定期考査をなくし“生徒主体の学び”をキーワードに学校全体が変わりました。教科書に書いてあることを正確に覚えて答えるだけの学習から、ルーブリックを作り、成果物に取り組むことを基本とした学びへと大きく転換しました。私も3年ほど前までは、授業を完全にコントロールする教師でしたが、思い返すと、レールの上をいかに速く走らせるかばかりに目が行き、生徒の主体性をあまり重視していませんでした。今は、教師として築いてきたレールを壊している段階です。」

オープンで協働的な学びを支える校舎

オープンで協働的な学びを支える校舎

これまで培ってきた指導のノウハウを壊して、新たなものを作るというのは勇気のいることだったに違いない。教師にとって授業の中で起きることが予測できないのは、常に失敗のリスクに直面することを意味するからだ。だが、その勇気は報われると濱﨑先生は言う。

「レールの上を走らせるよりも、今のように生徒が自ら学んだほうが、学びの質が高いと感じています。一斉授業でも良い授業を行ってきた自負はありましたが、生徒にはそれぞれ個性があり、どうしてもやり方の合わない生徒は出てきます。今の子どもたちは動画を2倍速などで視聴して、すごいスピードで知識を吸収できます。そういった世代による学習方法の差も、以前は考慮できていませんでした。」

大切なのは「主体的に学ぶマインド」

自ら学ぶことで学びの質は高まる。このことは読者のみなさんも学生時代に実感したことがあるだろう。学習指導要領でも「主体的な学び」として重要な観点に位置付けられている。「主体的に学ぶ」マインドさえ身につけば、基礎知識は後から必要に応じて身につけられる。PBLはそのマインドを身につけるのに最適なのだ。

「生徒のグループにミッションを渡すと、リーダーを決めていなくても、グループを円滑に運営する生徒が出てきます。そういう生徒を見つけると『良い行動』として、授業の最後や次の時間の最初などに全員に紹介します。反対に、誰も主体的に行動しなかった場合、グループの全員がただ座っているだけで一時間が終わってしまいます。そんな時に『ただ座っているだけでは嫌だったでしょ? じゃあ、どうやったら改善できる?』と生徒たちに問いかけて、自発的な行動を促します。頭ごなしに『このやり方がいい、これはダメ』と言うよりも、実際に体験するほうがずっと理解が深まります。」

英語の授業をPBLにすることで、濱﨑先生は単に英語だけを教えるのではなく、英語と道徳を同時に教えているような感覚になったと言う。教えているのは、単語や英文法だけではない。自立した学習者としてのマインドだからだ。

「『ディファレンスプロジェクト』では、生徒自身が日本語で作った台本を英語に訳していきます。中学1年生にとっては難しい課題です。しかし、ここでは敢えてAIを使わず、自分の力で取り組んでもらいます。がんばって考える力を身につけてほしいからです。」

3学期にはAIとの上手な関わり方も学ぶ。その際には、単純に正解を教えてもらうような使い方はしないという。質問に対して、質問による回答で誘導しながら学びを深める、所謂「ソクラテススタイル」に設定してAIを活用する。AIが優秀な家庭教師役となる使い方だ。

与えられた正解から自分自身の正解へ

PBL型の授業を導入してから生徒の様子にどんな変化があったのか尋ねると、次のように教えてくれた。

「自分たちで考えて行動する、自分たちで選択する力が身についていると感じます。また、教師や教科書だけが正解だという感覚が薄くなって、物怖じせずに挑戦できるようになりました。まだ、柔らかい頭を持つ生徒たちが、自分で考えて、するべきこと、やりたいことを判断しています。生徒たちの心が育っているのだと実感しています。」

正解はもちろん、成果物さえ、これからの時代はAIに全てお任せできるようになっていく。だからこそ大切なのは「心の成長」なのだと濱﨑先生。教師や保護者に言われたからではなく、自分自身で必要だと判断して学ぶ。その判断力があれば、必要な時にはAIの助けも借り、自分自身で取り組む必要がある時には自分の手と頭を使う。AIで何でもできる時代だからこそ、どこでAIを使うのか、それを判断する自立学習者としてのマインドを身につけることが、中学・高等学校ではますます重要になっていくのではないだろうか。

【文:萩原渉】

萩原渉
教育ジャーナリスト。編集者。修士(情報科学)。2018年、編集長として『ミライノマナビ』の創刊に関わる。AI時代やシンギュラリティ時代の教育のあり方について情報を発信している。

ECC総合教育研究所 所長 太田敦子

The ECC Perspective

追手門学院中学校 英語PBLの取り組みに寄せて

ECC総合教育研究所 所長 太田敦子

ECCジュニアでは、小学生科でTHINK AND TALK、中学生科・高校生科でVOICESという教材を使用していますが、このどちらも「思考力」「自己発信力」を養成するための教材です。題材は社会的なものが多く英語の難易度も高い。しかし児童、生徒たちは、「面白い!」「楽しい!」と言って取り組んでいます。「学習者は自ら学ぶ力がある」ことは、単なる学習科学の前提であるだけでなく、私自身がECCジュニア生から教えられた学びでもあります。

現行の学習指導要領実施によって最も難化した「英語」。ECC総合教育研究所では、学校での学習内容、定期テスト、高校入試や大学入試に至るまで徹底した調査研究を行い万全の対策を取ると共に、学習者一人ひとりの「自ら学ぶ力」を育てていきます。

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