相模原市立中野中学校の生成AI活用事業
子どもたちが自由に考え 自分たちで学び合う
生成AIを活用した未来の授業

文部科学省の「リーディングDXスクール」事業に指定され、生成AIパイロット校※1でもある相模原市立中野中学校(小磯滋校長)では、情報活用能力の育成のため、生成AIを活用する取り組みを行なっている。3年目となる2025年度は、通常の授業から生成AIを活用する段階にあり、AIリテラシーを高めるカリキュラム構築を実践してきた。1月23日に同校で開催された公開授業(英語)の模様をお伝えする。

※1生成AIパイロット校: https://leadingdxschool.mext.go.jp/ai_school/

生成AI×英語

相模原市立中野中学校(以下、同校)は、「リーディングDXスクール」事業に指定されているとともに、「生成AIパイロット校」の指定も受けているため、生成AIを使って生徒の対話的な学びを促すなど、生成AIの特徴をどう活かすかという最先端の課題に挑戦している。今回、取材した1年生英語の公開授業は、Unit 7 “The New Year in Japan”の単元で、SNSへの投稿文を英語で作成するという内容だ。

最初に、英語科教諭の坂本真矢先生が本時の導入を説明した。同校の教員たちがSNSでバズりたいという設定で「●●先生の投稿文を考えてください」というもので、生徒にとってとても馴染みのある課題だ。また、SNSの投稿文は基本的に過去の出来事を書くため、過去形の学びと結びつけるという狙いもある。

生徒たちは3〜5人のグループに分かれ、それぞれの先生について示された冬休みの「出来事(museum/toshikoshi soba/sauna/tennisなど)」をもとに投稿文を考える。生成AIの活用はここから。生徒たちは各自の端末でChatGPTを開き、坂本先生が提示したプロンプトをコピー&ペーストで入力する。プロンプトは2種類用意されていて、一つは英語が得意な生徒用のもの、もう一つはそうでない生徒用だ。

プロンプトを入力すると、AIはまず投稿の冒頭の文を入力するよう生徒に促す。その入力が済めば、AIがそれぞれの先生の「出来事」をベースに「したこと」「気持ち」「くわしい内容」を順番に生徒に問いかける。わからない場合は日本語で入力すれば、AIが英訳を教えてくれる。質問が10個になった段階で、AIは「そろそろ終わりにする?」と生徒に聞き、それまで作った英文をまとめてSNS投稿用の英文に整えて提示してくれる。

坂本先生は振り返りの時間で次のように説明した。「深い学びにつなげるためのプロンプトを考えました。工夫したのは、生徒の習熟度に応じて生成AIの使い方を選べるようにしたことと、AIによる翻訳をそのまま写して完成とならないように、AIとの対話の中で一文ずつ答えていく形にしたことです。」

生成AIを使った英語授業を行う坂本先生

坂本先生は、生徒がAIとの対話を通して一文ずつ英語を組み立てられるようプロンプトを設計した。

AIを助手にして自分たちで進める授業

授業を見ていてAI活用のほかに驚かされたのは、同校の生徒たちのICTスキルの高さと、グループワークに慣れていることだった。生徒たちは生成AIをはじめ、グループで共有する作業スペースや翻訳ソフトなどを必要に応じて切り替えながら英文を作成する。また、3〜5人で一つの英文を作るための役割分担もスムーズで、一人が生成AIに英文を入力している間に、他の生徒は翻訳ソフトで使いたい言葉の英訳を調べるという具合だ。

最新の生成AIを使うことで、生徒たちは教師の指示・判断を待たずにAIとのやりとりを始め、どうすればいいのかがわからず教師の判断を仰ぐ様子はほとんど見られなかった。目標が適切であれば、生徒たちはAIとのやりとりからだけでも学びを深められる。

あるグループでは、AIが「先生は一人で年末・お正月を過ごしてどんな気持ちでしたか?」と問いかけた。それを受けて生徒たちは、「寂しかった」と憶測で書いてよいのか、それとも「独身キャラで正月を一人で過ごした」という設定ならバズるかもしれない、と自由に考え始める。この対話を呼び込んだのはAIだった。

AIと一緒に作り上げた英語のSNS投稿文

AIとのやりとりを通して、英語の投稿文をグループで作り上げていく。

英語学習との相性の良さ

授業後半では、完成した投稿文をAIに評価してもらう。評価基準はプロンプトによってあらかじめ設定されていて、AIが文法やSNSらしさを評価し、さらに改善ポイントまで指摘する。

坂本先生は、「生成AIにA、B、Cの評価をつけてもらいますが、それを単に鵜呑みにするのではなく、自分の意図をどれだけ伝えることができたかを振り返ることが大切です。また、AIとともに文章を作り上げることで『AIを使えば自分たちにも英語の投稿文を作ることができる』という小さな成功体験を積み重ねてもらえればと考えています」と、重要なのは点数ではないことを強調する。

どれだけ失敗しても根気強くフォローしてくれる生成AIは英語学習と相性が良い。最後に、生徒は自分たちが作った投稿文をスクリーンショットで撮影して、クラスのチャットルームに投稿し、全員で共有して、良いと思った投稿に「いいね!」をつける。実際のSNSに投稿するのは安全上の問題もあるため、気分だけでも味わってもらいたいという坂本先生のアイデアだ。

習ってなくても進められる

「いいね!」つけが終わった後、坂本先生はクラスに「もう習った過去形には赤、まだ習っていない過去形には青色つけてください」と指示を出す。次に「他のチームの投稿も見て、全班に共通の青字の単語は何だろう?」と問いかけ、生徒たちが見つけたのは “was” だった。

このやりとりからうかがえるのは、生徒たちがまだ習っていない単語を使って文章を作っていたことだ。これは基礎知識を学んでから応用・実践へと進む従来の授業とは反対の進み方で、AIを活用したことで可能になった学び方の一つと言える。体験して必要性を感じてから基礎知識に戻るほうが学びはより深くなる。

坂本先生は「AIを使えば英文は誰でも書けるようになりました。重要なのは書く内容になっていくのではないでしょうか。そこで今回の公開授業では『バズりたい』という設定で、生徒たちの意識を『英文を作る』ことではなく『バズらせること』に向かわせました」とAI時代の英語教育の一端を示してくれた。

ゼロベースでの成果から新たな学びの領域へ

2023年から同校に指導・助言を行なっている青山学院大学の益川弘如教授(学習科学・認知科学)は「生成AIの授業での活用はまだ黎明期です。次期学習指導要領にどのように反映させるのか、現在、多くの専門家と取り組んでいるところです。中野中学校はゼロベースからのスタートで最初はたいへんでしたが、この上からのお仕着せではないボトムアップの実践は大きな強みを持っていると思います」と、総評を語ってくれた。

益川教授と同校の先生たちが生成AI活用の成果をまとめた『AIと仲間と学び合う 生成AI×対話×仲間=新たな学びの領域へ』(明治図書出版)が先日出版された。同校でAIが具体的にどのように活用されてきたのかが一冊にまとめられている。

【文:萩原渉】

萩原 渉(はぎはら わたる)
教育ジャーナリスト。編集者。修士(情報科学)。2018年、編集長として『ミライノマナビ』の創刊に関わる。AI時代やシンギュラリティ時代の教育のあり方について取材・発信をしている。

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